リジェネラティブ・オーガニック・カンファレンスの記録、4/4

環境

パタゴニアが開催した「リジェネラティブ・オーガニック カンファレンス」に参加しました。

いわゆる環境再生型有機農業に関する、日本初の会議です。

このような会議がwebで開催され、youtube(事前登録者のみ)で地理と時間に関係なく参加・視聴できる。

これはコロナによって引き起こされた社会進化の正の側面だと思います。

特に日本人の演者による4つの講演が素晴らしかったので、備忘録としてまとめておきたいと思います。


講演「日本の気候風土に適したリジェネラティブ・オーガニック農法とは」

福島大学 金子信博

Nobuhiro Kaneko Soil | 金子信博 | 福島県
Nobuhiro Kaneko Soil 金子信博、福島大学教授。横浜国立大学教授。

金子先生は土壌生物学者。土の中の生き物と地上の生き物の相互作用を研究されています。


慣行栽培と有機栽培の比較

総合的に見ると、有機栽培の方が良いことが多い。

収量は慣行に劣るが、収益性は高い。

FAO推奨の保全農法は世界的に急拡大しており、2015年時点で世界の耕地面積の12%に迫る。

2018年の調査では、中国900万ha、韓国2万3千haに対し、日本はゼロ。

保全農法は収量が3%程度減収するが、乾燥地では5%増収する。

保全管理では害虫は増えない。

保全的な管理で土壌の天敵が増加するため、むしろ害虫は減少する。

地上と地下の生物多様性

地上動物を1とすると、地下50cmで10倍、微生物を含めるとさらに10倍の生物がいる。

植物の地上に起こる挙動の原因は地下にある。

土壌生物の多様性を失うことは生態系サービスを失うということであり、これが土壌劣化である。

インドネシアのサトウキビを例に見ると、生産量は長期的に減少傾向にあり、化学肥料や堆肥を増やしても収量が増えない現象が起きている

インドネシアのプランテーションで生産量に関して耕起、不耕起、バガスマルチで比較実験をした。

この際、南米の外来ミミズが地下生態系で優占しており、地下の生物多様性が失われていることがわかった。土壌炭素の回復は極めて遅く、4年の研究では差が出なかった。

なぜ不耕起草本で作物が育つのか

不耕起でも除草剤を使うと土壌には良くない。

有機栽培でも、耕起を行うとよくない。

除草剤不使用、不耕起によって何ができるか。

耐水性団粒が形成され、水に流されない構造の土の状態が維持される。

プランテーションで不耕起を始めた初年は収量が半分で皆にやめろと言われたが、4年継続すると生産量が耕起群との差がなくなり、ミミズの多様性も増加してきた。

この研究によって、不耕起マルチ栽培が収量と生態系が両立できる方法であることが明らかになった。

土壌の健康とは、一次生産ができること、そして生態系サービスを維持する能力があることであり、有機物が多く、有機物や植生が地面を覆っていて、更に不耕起だと、土壌の生物活動が増加し、保水性も排水性もよい土壌ができる。

欧米で発展している保全農法が日本でも成り立つのか

日本における保全農法の導入の問題点

  • 雑草の繁盛
  • 移行期間の長さ
  • 専用の農業機械がない
  • 平野部農地の生物多様性回復

解決案

  • 水田では有機栽培拡大中
  • 越年性カバークロップによる抑草(畑作)
  • 耕作放棄地の活用(誰も触ってないところで試す)
  • 日本の農地にあった電動農業機械
  • 集水域で繋がる(広い範囲の一部が頑張っても意味がない)

福島県の飯舘村試験地では4年の不耕起施肥で収量が上がり、土は柔らかくなり、ミミズなど土壌生物群集は増えた。

不耕起草本栽培の採用では地中に樹上構造の水の道ができる。これによって保水性と排水性が同時に改善する(コンストラクタル理論)

要するに、土の中に水や肥料を届けるには根っこの形がベストである。

水田ではどうか

不耕起栽培の研究は畑がほとんど。水田ではどうか。

rodel研究所のジェフ・モイヤー氏が開発したライ麦を倒伏させる不耕起栽培にチャレンジ中。

倒す時期は乳熟期で、同じ方向に倒し、その方向に播種機を走らせる。1平方メートルあたり乾燥重量1kgのライ麦が育てば抑草可能。23年5月末、電動農機具の公開実験。

上流と下流は水でつながっている(集水域)。ここを一体として農業を捉え直す。

水田で除草剤を使わないとイトミミズが増加する。トロトロ層にはメタンを酸化させる菌が生息する。

集水域で考える

条件不利地は保全農法にとって優位性がある。

木質バイオマス、堆肥の利用は近くの山から持ち出せばよく、効率が良い。

条件不利地は営農を放棄しているところも多く、様々な実験ができる。

保全的な農法と特徴的な管理を比べてみると、環境再生型有機農業は自然農に近い。

農薬、化学肥料、除草剤、耕起はトップダウンの技術。誰がやっても使える。

カバークロップ、有機物マルチ、輪作と混作はボトムアップの技術。場所によって適応できるものが違う。


感想

様々な栽培技術を比較して、リジェネラティブオーガニックの要素であるカバークロップ、有機物マルチ、輪作と混作を「場所によって適応出るものが違う」ボトムアップの技術、と表現しているのがとても印象的でした。

慣行農業は高度にモジュール化、パッケージング化されているのに対して、非常に対照的な技術です。

要するに標準化のしようがない、その土地や歴史に合わせた、それぞれのやり方を探るしかない、ということになるのでしょうか。

しかし考えてみると、異なる自然環境、気候風土に同じ技術を適応すると、同じ生産物が同じ程度の量と質で生産できることの方が、文字通り不自然な話です。

再生する、というのはこの当たり前のことを当たり前にすることなのかもしれません。

そして1900年代、化学肥料も合成農薬もなかった時代と今では技術の蓄積が大きく異なります。

今の技術をもってして、過去に営まれていたような気候風土に叶った適地適作をやっていく。

これこそが、リジェネラティブオーガニックのあり方の1つのなのかもしれません。

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