リジェネラティブ・オーガニック・カンファレンスの記録、3/4

環境

パタゴニアが開催した「リジェネラティブ・オーガニック カンファレンス」に参加しました。

いわゆる環境再生型有機農業に関する、日本初の会議です。

このような会議がwebで開催され、youtube(事前登録者のみ)で地理と時間に関係なく参加・視聴できる。

これはコロナによって引き起こされた社会進化の正の側面だと思います。

特に日本人の演者による4つの講演が素晴らしかったので、備忘録としてまとめておきたいと思います。


講演「長期の不耕起畑作試験によってわかってきた日本での可能性と課題」

茨城大学 小松﨑将一

研究紹介 – 茨城大学農学部附属国際フィールド農学センター   農生態システム学研究室

小松崎先生は茨城大学の先生。長年にわたって不耕起栽培の研究をされている方です。

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畑はきれいに耕して管理することは農学部時代の常識だったが、「農業をすればするほど土は良くなる」4人の篤農家との出会いで不耕起やカバークロップと出会った。

4人の特農家のメモ…茨城県牛久市の高松求さん。栃木県那須烏山市の戸松正さん。茨城県阿見町の浅野祐一さん。愛知県新庄市の松沢政満さん。

日本において不耕起栽培は可能か?

FAO(国連食料農業機関)の保全型農業の3つの基本ルール

  1. 「土壌の攪乱を最小限にする」
  2. 「土壌を被覆する」
  3. 「圃場内の生物多様性を確保する」。

これを日本の環境でどのくらいできるのか。

不耕起栽培の課題として挙げらるのが、播種の難しさ、雑草被害の大きさ、発芽不良などがある。

日本の有機栽培は耕起でこれら課題に対応している。

不耕起でこれらの課題に対処するのは困難だが、不耕起が土を良くする効果は非常に高い。

不耕起栽培の研究

不耕起栽培の研究として、プラウ耕(深さ27cm)、ロータリ耕(深さ15cm)、不耕起の3群を比較。

カバークロップとしてヘアリーベッチ、ライ麦を裸地と比較した。

カバークロップはフレールモアで裁断したあと、溝を切って播種。

播種機の負荷はロータリに対して1/10であった。

カバークロップによる炭素供給料はhaあたりライ麦で4.2tC,ヘアリーベッチで1.6tC,裸地で0.8tCであった。

不耕起栽培の雑草リスクについて

現実的には、不耕起で雑草管理がうまくいく圃場もあれば、雑草に負ける圃場もある。

これに対してカバークロップを用いて雑草のコントロールを試みている。カバークロップの雑草抑制効果は高い。

そのほか、刈り払い機向けアタッチメント「アイガモン」を活用した草刈り試作機を開発中。

不耕起有機大豆の場合、初期に3回程度除草をすれば良いことが研究の結果分かった。


長期の不耕起管理で土壌の深い部分まで変化が認められ、土の炭素貯留は年々向上した。

不耕起+ライ麦が炭素貯留の効果が最大になり、カバークロップと不耕起栽培ではネガティブエミッションを実現することができることが分かった。

カバークロップの組み合わせは生態的な多様性が得られるほか、水関係についても得られる。

まず、圃場の排水性が向上し、高温、乾燥土壌でも生育が確保された。

更に、不耕起の土壌は植物の利用できる水を1haあたり20t多く保水でき、保水と排水という異なる性質の土壌特性を得ることができる。

耕運方法によって大豆の収量に及ぼす影響は、統計的な差が出なかったが、土壌炭素量、物理性や化学性、生産のスコアは改善した。

不耕起栽培のコストについて、トラクターの消費量が減る一方で、カバークロップの種子購入コスト等が発生することに留意。

ソーラーシェアリングx不耕起有機栽培の課題

課題1。安定した除草、抑草技術の開発。

圃場ごとに雑草発生ポテンシャルに差があり、それぞれに対応しなければならない。

初期3回の除草では間に合わないところもある。

課題2。安定した栽培技術の検討。

不耕起有機環境に適した品種の選択。

地上部は良くできるが実が少ない、など実例があった。

マメハンミョウなど希少昆虫による被害も課題。

不耕起栽培のアジア地域での可能性について

メタ解析の結果、アジアにおいても土壌炭素貯留は増加。

小麦や大豆などは慣行と同一の収量。

収量が増えない、ということについて「不耕起栽培はそもそも増収技術ではない」ことを念頭におく必要がある

まとめ

不耕起栽培にカバークロップを併用することで炭素貯留は18年間増加した。

生産費や投入エネルギーの削減ができる。

除草と安定生産が課題。

土壌は一見頑強でも壊れやすく、容易に分解される。


感想

私が「やっている」というのもおこがましい、児戯の如き有機不耕起のお遊び家庭菜園に対して、はるかに真剣に、かつ長期間この栽培方法の検討をされている人の話を聞くことができ、大変勉強になりました。

今後、より本格的に家庭菜園に向き合う際にはこの先生の研究を真っ先に参照してゆこうと思います。

そして、最後にハッとさせられたのが「有機不耕起は増収技術ではない」という点です。

おそらくこの栽培技術を実践したときには、収量が少なく、ガッカリすると思います。

しかしそれは、ある程度の減収は織り込み済みのことなので、落ち込む必要はないのです!

「土を育てる」著者のゲイブ氏も「収量でなく収益を見よう」と言っていましたが、何かを育てるとその収穫量に目を奪われがち。

ですが、既に人口の要請を上回る食糧生産が実現されている現代において、重要なのは量でなく「質」、つまり「どんな価値が含まれたものを生産できたのか」という点だと思います。

人生100年。

より質の高い、リジェネラティブな家庭菜園を目指します。

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