リジェネラティブ・オーガニック・カンファレンスの記録、2/4

昆虫

パタゴニアが主催する「リジェネラティブ・オーガニック カンファレンス」に参加しました。

いわゆる環境再生型有機農業に関する、日本初の会議です。

このような会議がwebで開催され、youtube(事前登録者のみ)で地理と時間に関係なく参加・視聴できる。

これはコロナによって引き起こされた社会進化の正の側面だと思います。

特に日本人の演者による4つの講演が素晴らしかったので、備忘録としてまとめておきたいと思います。


講演「日本の農地景観の特徴と生物多様性の活用」

東京大学 宮下直

宮下 直 | 東京大学

宮下先生は生態学者であり、今回の講演では4つのテーマについて講演されました。

1.日本の景観と水田稲作の相互関係

景観とは単なる景色でなく、生態系の集まりである。

稲作が生態系を作り、生態系が稲作を作る、相互関係にある。

日本の環境の特徴とは和辻哲郎が「四季があり、台風や洪水、大雪がある。夏の高温湿潤で食性遷移が早い。」と述べているのに正に表されている。

国土は、山の多い急峻な地形であり、小さいスケールで土地利用が複雑に変化する。

景観がモザイク性に農地と森が入り組んだ姿を見せ、ある地点から1kmも移動すれば全く違う土地がある。

圃場サイズも小さく、大陸の農場が一片が数kmと続くのとは大きく異なる。

稲作が盛んなモンスーンアジア地域(年間降水量1000mm以上)とは、東南アジア、中国中南部、インド、日本など。

この国々に共通の特徴は、人口が巨大なこと。

これは、巨大な人口が維持できるほどにイネの生産性は高い、と考えてよい。

米は面積あたりの収量が大きく、水田稲作は陸稲や小麦と比べて肥料が少なくて済み、連作もできる。

世界の圃場サイズでみると、アジアモンスーン地域は圃場が小さい

中国やインドも小さく、圃場の小ささは日本だけの特徴ではなくモンスーンアジア地域の水田稲作地域の特徴であると言える。

1つの要因として、小規模経営でもやっていける経済的条件がある。小麦は大規模な圃場でなければ採算が合わないのに対し、コメは比較的小規模でも経営が可能であるから小規模で維持できたのだと考えられる。

圃場サイズが小さいと、環境的には境界線地が多くなり、畦畔の面積が広くなる

2.景観異質性が育む生物多様性。

単一に利用される土地(田んぼだけ)だけでなく、複数の利用方法が異なる土地(田んぼ、畑、河川、森)が集まると、種の多様性が相乗的に増える。これを生息地補完(habitat complementation)という。

完全変体を行うトンボ、カエルなどを想像するとわかりやすい。

幼体の時期を過ごす水中環境と、成体の時期を過ごす森林、草原の2つの生息地が必須である。

渡鳥の猛禽類サシバや、中型雑食ほ乳類のタヌキなど、エサを求めて複数の生息地を移動しながら暮らす生き物も含める。

クモ類(演者の研究メインテーマ)は、最も数の多い節足動物の捕食者であり、多様性が高く、調査がしやすく、農業害虫の主な天敵であることから重要な研究対象である。

クモ類の生息状況を調査すると、森と田んぼが半分ずつくらいの土地が、最も種の多様性があり、個体数も多いことが分かった。

森林から餌が流入したり、草刈りの撹乱からの隠れ場になっている可能性が考えられる。

3.小規模農地が支える害虫防除サービスと送粉サービス

水田で最もよく見られるクモはアシナガグモ類。

アシナガグモ類は周辺に森林が多いと数が多く、保全型農業が行われているとさらにその数が増える。

当然だが、クモが増えると害虫の数は減ることが多い。

クモは水路と水田を季節的に行き来している。

田に水が張られている時期は、そこに発生するユスリカ類を捕食するため水田の中に多く、稲刈りが終わった時期は水路に移動している。

里山景観には、重層的な景観異質性が存在している。

農地と森林、水田と畦、水路、畑など、様々な土地のあり方と使い方が、様々な生物の棲家となっている。

4.希少種保全にも役立つ草地管理

ソバは害虫が少なく、雑草より成長が早い、本来が環境保全型な作物である。

ソバは虫媒花であり、結実には昆虫の助けが必須であり、飯島町の調査ではソバの花に100種以上の昆虫が訪れていた。

そこで、ソバ開花前1ヶ月に

「畦の草刈りをする」vs「畦の草刈りをしない」で昆虫の来訪率とソバの結実量を比較したところ、畦を刈らない方が昆虫の来訪率が増え、ソバの結実量は2,3割アップした。

更に、草の高さでいうと中程度の植生高(30-50cm)が最も良いことが分かった。

ソバの結実率をみても畦の草丈30-40cmで頭打ちとなった。

これ以上の高さになると特定のイネ科草本が一人勝ちしてしまうため、植栽の多様性が得られないためだと考えられる。

ソバは多様な昆虫を中立ちとして多様な野生動植物からの恩恵を受けている。

まとめ

生物多様性、農地、自然地は、相互に関係しあって文化的サービス、害虫防除サービス、送粉サービスを人間に提供している。

日本の農地景観と生物多様性の特徴を生かした土地管理を考えよう。


感想

まず、アジアモンスーン地域の共通項として圃場が小さいというのは初めて知りました。

圃場の小ささは日本の農業の合理化を妨げる要因であると様々な媒体で語られているので、これは我が国特有の問題であると思っていました。

人口も国土も巨大なインド、中国でも圃場が小さいのは、栄養的にも経済的にも生産性が高い水稲栽培の特徴である、というのは非常に説得力がある説明です。

西欧と比べるのはもちろん大事ですが、農業に関しては同じ気候分類であるアジアモンスーン地域での比較も重要なのだということに気付かされました。


また、複数の重曹的な重なり合う環境が生物多様性に寄与する、というのは私の庭造りのコンセプトでもあり、非常に共感するところです。

様々な生物を呼び込むためには環境は複雑で、様々な要素があるほうが良いというのは庭造りでも学んだことですし、草は刈り込みすぎないほうが良い、というのは他の多くの研究でも認められています。

人生100年。

自然を参考に庭を作り、自然を参考に畑を作る。

自然を参考にしながら、様々な研究の知見を活かし、庭づくりや畑づくりに応用してゆこうと思います。

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