久松達央氏の著作レビュー「キレイゴトぬきの農業論」「小さくて強い農業」

メディア

久松達央氏。

有機栽培で少量多品種を生産し、顧客に直送する営農スタイルの久松農園を経営する「カリスマ脱サラ農業経営者」です。

読んだ感想として、二つの著作はこんな人にオススメしたいです。

  • 農業従事者。「農家の異端」を自認する筆者のチャレンジの軌跡とロジックの組み立ては同業者同士でしか分からない何かがあると思います。
  • 農業に憧れのある人。新規就農の難しさと厳しさ、そしてそれを補って余りある魅力がいっぱいです。趣味の家庭菜園から農家になりたがる人はたくさんいますが、趣味の釣りから漁師に憧れる人はいないには何故か。
  • 有機農家の実際について知りたい人。農業技術についてはほとんど触れられていませんが、有機農法にまつわる神話や有機農法界隈の空気感がよく分かります。

私より15歳以上先輩ですが、同じ会社のOBで親近感を覚えました。共通点があると身近に感じられますね。

kindleで購入

「小さくて強い農業」では、大学卒業後にサラリーマンとして働き、辞めてから農業の世界に飛び込み、さらには雇用主となるまでの道のりを飾らずに曝け出しています。

確固としたポリシーや資本を持たないままに、何となく環境保護意識やシンプルライフに憧れて農業を始めた筆者。

門外漢から見ると「農業」とはブラックボックスそのもの。

そのブラックボックスの中で、センスやガッツに頼らずにロジックに基づいて農法や経営を考え、実践していく様はとても面白く、「農業の自由さ」を感じさせます。

著者の言う農業の自由さとは、経営の自由さとほぼ同じで「プロセスの自由」を指します。

野菜作りの本というより農業の経営、

農業の経営というよりも中小企業の経営についての本として読むべき本かもしれません。

少量多品種を有機生産で顧客に直送することについて著者は次のように述べています。

合理性とは別次元の「こだわり」です。なぜ、と聞かれても、「他のやり方にはグッとこないから」としか答えようがありません。

合理性からはみ出した「グッと」を追求する農業、これを僕は「変態型」と呼んでいます。

『小さくて強い農業をつくる』久松達央著
https://a.co/hoUXLVa

変態に惹きつけられる私が著者に引き寄せられたのは必然かもしれません(笑)

この変態性こそが競争力の厳選、人を惹きつける魅力であると思います。

kindleで購入

「キレイゴトぬきの農業論」では極めて明解な論理で有機栽培にまつわるキレイゴトが必ずしも正しくないことを示しながらも、なぜ著者が有機農法をやっているのか、就農するとはどういうことか、についても文字通りキレイゴトぬきで明快に語っています。

危険な農薬使っていないので安心、有機栽培だから美味しい、環境にいい、など語られがちな有機農法。

著者は「美味しい野菜を作る」をゴールとして、手段として有機栽培を営んでいます。

個人的に驚いたこと美味しい野菜を作る要素の8割は「鮮度、品種、旬(栽培時期)」で決まるということ。

有機かそうじゃないかの寄与度はあまり重要でない、ということだそうです。

著者は有機農業を「生き物の仕組みを生かす農法」と定義し、そこから得られる野菜を「健康な野菜」と表現。

健康な野菜を作る為には生き物の仕組みを借りる必要があり、生き物を殺す農薬は使うことができないので無農薬を実行しているのであって、著者にとって無農薬は目的ではなく手段であると明言しておられます。

無農薬や有機栽培はそれ自体が目的であり、それ自体に大きな価値があると思っていた私にとっては衝撃的な現実認識でした。

確かにベランダガーデニングなら時期外れにタネを撒いても、無計画に寄せ植えしても、収量ゼロでも構いません。一方、これが事業ならばそうはいかないのですね。

筆者の作る野菜に興味が湧いたので、お取り寄せしてみることにしました。

とても楽しみです。

コメント

タイトルとURLをコピーしました