「ミミズの農業改革」金子信博著.レビュー

植物

久しぶりに、リジェネラティブ農業に関する学び。

Patagoniaが主催したリジェネラティブ・オーガニック・カンファレンスにて登壇されていた、福島大学の土壌生態学者である金子先生の著作です。

第一部.土とは何か

この本は研究所である著者が一般向けに書いた本で、何の専門家でもない私でもサラサラ読む事ができました。

本を読みやすくする工夫の一つで面白かったのが、狂言回しとしてミミズを登場させていたところ。

第一部の「土とは何か」は舞台設定であり、ミミズは主人公です。

普段目にする機会の少ないミミズが、実は土の中でどんなふうにして暮らしているのか。

土の構造や石炭ができた時代の歴史を交えつつ、ダイナミックで面白い展開で読み進める事ができました。

驚いたのは、土の中の生物群はとても多様性に満ちており、しかもほとんどが未解明であるという事。

そして世界中の土の中の細菌を調べたところ、どこをとっても似たような顔ぶれであったという事です。

本書参考文献3. Fierer, N., Strickland, M. S., Liptzin, D., Bradford, M. A., Cleveland, C. C., 2009. Global patterns in belowground communities. Ecology Letters 12, 1238–1249.」—『ミミズの農業改革』金子信博著
https://a.co/eyEtlMR

砂漠、ツンドラ、熱帯林など地上部では生物種が激変しますが、なんと地下の最近群については多少の差こそあれ同じ顔ぶれが揃っているというのは驚くほかありません。

それだけ地中の細菌群が安定している、ということの表れでしょう。

第二部.人の介入で何が起きるか

農業とは、タネや苗を植え付けたり、水や肥料を撒いたりする、土に対する人の介入です。

自然には、風があり水があり、虫や鳥や獣がいます。

土があれば基本的には植物がそこをすでに陣取っており、更土の中にも多種多様な生き物たちがいます。

これら変数の多いことは、科学的に問題解決しようとすると厄介なこと。

うまくいかなかった時に何が原因なのか分からないからです。

そして農業では管理の都合上、一つの畑で一種類の作物を大量に育てるので、積極的に生物多様性に乏しい環境を作っているといえます。

これが、現代の農業の大きな落とし穴であるというのが第二部の要旨です。

農業の観点で言えば、それは生物多様性が高いほど生態系の安定性が高いからである。

これは物理学的なモデルから考えると不思議な現象だ。

数理モデルでは構成要素が多くなると系が不安定になるからである。

一方、私たちの身の回りの生態系は、経験的に多様性が高いほど安定している。

—『ミミズの農業改革』金子信博著
https://a.co/gAXJdEe

では、生物多様性に依拠した農業とはどのような形がありうるのか。

筆者は一つの提案として「土壌中の環境を保全した農法」としてリジェネラティブオーガニック農業(環境再生型有機農法)を提案・推奨しています。

引用:『ミミズの農業改革』金子信博著
https://a.co/atPCKgT

復習のためにおさらい。

農業は、農薬を使うか否か、化学肥料を使うか否か、遺伝子組み換え作物を用いるか否か、など生産手段によって様々な分類がされます。

リジェネラティブ・オーガニック農業、または環境再生型有機農法とはこのうちの分類の一つですが、これといった明確な定義はありません。

引用:『ミミズの農業改革』金子信博著
https://a.co/atPCKgT

第三部.農業をどう転換させるか

そして最後の第三部はいよいよ実践。

実践といっても、確立した方法論はありません。

保全農法が保全するのは土壌であり、土壌の生き物たちである。

これが保全農法の基盤となる考え方であり、ここまでは共通している。

しかしその先は、各地の土壌と生態系を知ることから始める必要がある。

環境の異なる海外の先行手法をただ導入すればよいというものではない。

その効果や拡大方法については、いまだ模索の途上にあると言えるだろう。

—『ミミズの農業改革』金子信博著
https://a.co/gcwmuHo

ロデール研究所が発信するライ麦をローラークリンパーで薙ぎ倒す農法を試してみたり、既に国内で不耕起栽培を実践されている篤農家さんのもとを訪れてみたり、様々な角度、方法論から実践にチャレンジしておられます。

それらを踏まえて、著者はいきなり全てを転換するのではなく、既存の慣行農法を保全農業に転換していく(農薬や化学肥料を削減し、耕起を控え、カバークロップ等を活用してゆくことが無理のない転換に必要であろうと結論づけます。

そして目指すところが環境とともに農業を行うならば、生態学の知識も必要となるだろうと結んでいます。

風土の違いを理解し、季節にあわせて栽培する有機農業はその場所固有の経験知が中心となる。

気候風土が異なる場所での経験はほとんど役に立たない。

一方、個性はあるものの、生物は生態学が明らかにしてきた共通の原理で動いている。

化学、物理の農業から生物の農業に移行するには、生態学の知識が必要である。

『ミミズの農業改革』金子信博著
https://a.co/9zB06ok

読後

リジェネラティブ農業に関して、また一冊すばらしい本が日本語で読めるようになってとても嬉しく思います。

前回読んだこの手の本は、アメリカの実践者の本でそれはそれでとても面白かったのですが、今回は日本の大学の研究者さんが書く本ということで違った味わいがありました。

方法論がわかっていないという知のフロンティアに興味がつきません。

これまで家庭菜園レベルで実践と失敗を繰り返していますが、まだまだチャレンジを続けてゆきたいと思います。

コメント

タイトルとURLをコピーしました