(投稿日:2020/07/26)(最終更新日:2020/08/08)
漆を扱う以上避けては通れない「漆かぶれ」の話。
今思えば信じられない本当の話ですが、漆を扱っていた初期の頃は肌についても全くかぶれませんでした。
当時読んだ漆の本によると『10人いたら8人はかぶれる。1人はひどくかぶれる。1人は全くかぶれない』といった記述があり、私は「漆の神に許された男」だと己惚れていました。
それからしばらく後、割れた器の修理で久々に漆を扱っていたところ、手にべったりと漆がついてしまいました。
漆に許された(と思っている)私は、手についた漆を落とすこともなく適当に拭い去り、放ったらかしにしておりました。
異変はその日から3-4日後に起こります。
初発の症状は顔と股間に現れました。
おでこ、まぶた、鼻に水膨れができ、全体的に赤く腫れます。
痒い。痒い。痒い。
痒い。痒い!痒い!
痒くて痒くて、痒くて気が狂いそう….!
翌日、皮膚科医に駆け込みます。
Dr 「心当たりは?」
漆の神に許されたと思っている私「ありません(本気)」
…当然、診断は遅れます。
言い訳をしますと、漆がついた場所が即時かぶれるなら誰でも漆かぶれと気づくでしょう。
付着箇所に症状はなく、顔や股間に、数日後に症状が出てきたのですから全く漆のせいと思っておりませんでした。
痒みは一向に引かず、診断もつきません。
「未知の皮膚病に侵されてしまった…」と怯えながら、何度も通院を重ねるうちに医師から再度問いただされました。
Dr「心当たりは? 本当にない…?」
ふと、漆の信仰が揺らぎます。
私「あ…漆を扱いました」
Dr「…間違いない。漆かぶれです。」
処方してもらったステロイド薬や抗ヒスタミン薬のおかげで多少はマシになりましたが、それでも痒みが完全になくなることありません。
先の漆の本を冷静に読んでみると、狂気が見え隠れしているのに気がつきました。
(以下、引用)
「一度ひどくかぶれるのは通過儀礼。その後かぶれなくなる」
「漆かぶれは後が一切残らず、かえって肌が綺麗になる」
「職人は漆を舐めて免疫を獲得する」
(引用終わり)
この記述に対して違和感を感じない程度に狂気に取り憑かれた私は、自らの体を実験台に「漆かぶれとの共存共栄の道」を探りました。
以下にこれまで積み上げてきた研究成果を記します。以下は全て実体験に基づくもので、医学的な見地に基づくものではありません。
- 漆かぶれは遅発性。付着直後でなく、数日して暴れ出します。
- 漆かぶれは全身に起こり得ます。漆がついてないところでも起こります。
- 漆かぶれは跡が残りません。綺麗さっぱり治ります。
- 完全に治るのに2-4週間はかかります。
- 漆かぶれにとって一番の大敵は熱。熱いお風呂は厳禁。地獄をみます。
- 逆に冷やすと痒みがマシになります。
- ステロイド内容剤、抗ヒスタミン内容剤など飲み薬がよく効きます。
- 同じ薬でも、塗り薬タイプは効きません。
- 漆の本には「サワガニをすりつぶした汁」が効くと職人たちの間で言われているそうですが、サワカニが可哀想なので試してません。
- 漆に関する医学文献を漁りましたが決め手になる対処療法は見つかりません。
- 漆はスプーン一杯を1度舐めた程度では免疫はつきません。全身がひどくかぶれ、地獄をみます。
- 漆がついたらすぐに揮発油で拭き取ります。うまくいけば軽いかぶれですみます。
- 繰り返しかぶれると、だんだん痒みがマイルドになってきます。繰り返しかぶれることで多少の免疫がついているような気がします。
- 繰り返しかぶれると、漆がついた直後から「あ、かぶれるな」というムズムズした前駆症状が現れることがあります。だからといって漆かぶれは防げませんが、覚悟はできます。
- 数ヶ月かぶれ続けましたが、完全にかぶれがなくなることはありません。
- 一番よいのは漆に触れないように手袋や長袖など物理的に防御することだけです。
どれほどかぶれても、また漆塗りに手を出してしまう。
「深淵をのぞく時、深淵もまたこちらをのぞいているのだ」ニーチェ
この魔性の魅力こそ、最も恐ろしい漆かぶれの症状なのかもしれません。
コメント
[…] 私も自宅で使っていて壊れてしまった食器の類を、漆かぶれと戦いながら修理して使っています。 […]
[…] 日本には壊れた道具を漆で修理するという素晴らしい伝統的な文化が存在しており、中でも金継ぎは根強い人気があり、私も自宅で使っていて壊れてしまった食器の類を、漆かぶれと戦いながら修理して使っています。 […]